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最高裁判所第二小法廷 昭和24年(オ)48号 判決 1950年6月30日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人弁護士関口緝上告理由は、末尾に添付した別紙書面記載のとおりである。これに対し当裁判所は次のとおり判断する。

第一点について。

原判決認定の事実は、その挙示する証拠によれば、これを認めるに十分であつて、所論は原審の専権に属する証拠の取捨判断を争うものであるから、上告理由として採用の限りでない。

第二点乃至第四点について。

原判決は、被上告人等が上告人を悪意をもつて遺棄したと上告人の主張する事実のすべてについて判断しているものと認められるから、原判決には審理不尽の違法はない。そして、原判決が適法に確定した事実によれば、被上告人等の行為は、上告人を旧民法第八六六条第二号にいわゆる「悪意を以て遺棄した」ものには該当しないものと認められる。従つて、これと同趣旨に出でた原判決は相当であつて、論旨が引用する大審院判例は本件に適切でなく、この点に関する論旨は結局以上と反対の見解にたつて、原判決を攻撃するものにすぎない。その他の論旨はすべて原判決の事実認定を非難するに帰するものであるから、論旨は何れも理由がない。

第五点について。

本件離縁の原因として、被上告人快一に上告人家の家名を汚す重大な過失があるとの上告人の主張について、原判決はその認定した事実をもつて、上告人家の家名を汚す行為があつたともいえないと判示しており、右は旧民法第八六六条第五号の家名汚涜を離縁原因とする規定の適用あることを前提としているものと認められるけれども、右規定は民法応急措置法第三条にいわゆる家に関する規定にあたるものと認められ、同条により右規定は昭和二二年五月三日以降は適用されないものである。記録によれば、原審における本件口頭弁論の終結時が昭和二三年一一月一〇日であつて、新民法施行後であること明らかであり、且つ本件は新民法附則第一三条によつて離縁に準用せられる同第一一条にいわゆる新法施行前に生じた事実を原因とするものに外ならないから、同条により従前の例によるものであり、従つて前示民法応急措法第三条により、旧民法第八六六条第五号の家名汚涜を離縁原因とする規定は、本件に適用すべき限りでないといわねばならぬ。して見れば、家名汚涜を原因とする限りにおいて上告人の本件離縁の請求は、既にこの点に於て排斥を免れないものであるに拘らず、前記規定の適用あることを前提として判断を加えたものと認められる原判決は、適用のない法令を適用あるものとした違法があるものというべきではあるが、原判決は、その認定した事実によつては被上告人快一に上告人家の家名を汚す行為があつたともいえないと判示し、上告人の請求を失当として排斥しているのであるから、右の違法は原判決の主文に何等影響を及ぼさないものであり、原判決は結局正当に帰するものであつて、これがため原判決を破毀する必要は認められない。以上説明するところにより、家名汚涜を原因とする上告人の請求についての原判示の当否を争う論旨の理由のないこと明白である。

よつて民訴第四〇一条、第九五条、第八九条により主文のとおり判決する。

以上は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

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